こんにちは。イナガキ眼科 理事長・院長の稲垣圭司です。
白内障手術のご相談で、患者さまからよく聞かれる質問があります。
「白内障手術を受ければ、老眼も治りますか?」
多焦点眼内レンズを選択することで、遠くから手元まで見える範囲を広げ、眼鏡を使用する頻度を減らせる可能性があります。
ただし、多焦点眼内レンズを入れれば、必ず単焦点眼内レンズよりもよく見えるというわけではありません。
今回は、多焦点眼内レンズの特徴や、イナガキ眼科で行っている患者さま一人ひとりに合わせたレンズ選択について、分かりやすくご説明します。
老眼とは?
涙は水分だけでできているわけではありません。
若い頃の目の中にある水晶体は、見る距離に合わせて厚みを変え、ピントを調節しています。
しかし、年齢とともに水晶体が硬くなり、近くを見るための調節力が低下します。これが老眼です。
白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入します。
通常の眼内レンズには、若い頃の水晶体のように厚みを変えてピントを調節する力はありません。そのため、どのような眼内レンズを選び、どの距離にピントを合わせるかが、手術後の生活に大きく関わります。
単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの違い
単焦点眼内レンズは、基本的に一つの距離にピントを合わせるレンズです。
遠くにピントを合わせた場合は、遠方を鮮明に見やすくなりますが、読書やスマートフォンを見る際には老眼鏡が必要になります。
反対に、近くにピントを合わせた場合は、手元は見やすくなりますが、遠方を見るときに眼鏡が必要です。
多焦点眼内レンズは、遠方だけでなく、中間距離や近方にも焦点を持たせるように設計されています。
最大のメリットは、すべての距離が単焦点眼内レンズより鮮明に見えることではなく、日常生活で眼鏡を使用する頻度を減らせる可能性があることです。
多焦点眼内レンズの方が、必ずよく見えるわけではありません
「多焦点」という名称から、単焦点眼内レンズよりもすべての距離がよく見えるレンズだと思われることがあります。
しかし、必ずしもそうではありません。
単焦点眼内レンズは、一つの距離に光を集中させるため、その距離における鮮明さやコントラスト感度に優れています。
一方、多焦点眼内レンズは、遠方・中間・近方など複数の距離に光を振り分けます。そのため、レンズの種類によっては、単焦点眼内レンズと比較して、わずかにコントラストが低下することがあります。
また、夜間に街灯や車のライトの周囲に輪が見える「ハロー」や、光をまぶしく感じる「グレア」が生じることもあります。
多焦点眼内レンズは、視力検査の数値だけでは評価できません。
焦点深度拡張型と回折型の違い
多焦点眼内レンズにはさまざまな種類がありますが、代表的なものとして、焦点深度拡張型と回折型があります。
焦点深度拡張型レンズ
焦点深度拡張型レンズは、ピントが合う範囲を前後に広げることで、遠方から中間距離までを連続的に見やすくするレンズです。
一般的には、
- 遠方からパソコン程度の中間距離まで見やすい
- コントラスト感度が比較的良好
- 回折型と比べてハローやグレアが少ない傾向がある
- 夜間に車を運転する方にも検討しやすい
といった特徴があります。
一方、細かい文字を読む距離では、老眼鏡が必要になる場合があります。
回折型多焦点レンズ
回折型多焦点レンズは、レンズ表面の構造によって光を複数の焦点に振り分け、遠方・中間・近方まで幅広く見えることを目指したレンズです。
一般的には、
- 読書やスマートフォンなど近方まで見やすい
- 眼鏡への依存度をより減らせる可能性がある
- 遠方から近方まで幅広い距離をカバーできる
といったメリットがあります。
一方、光を複数の焦点に振り分けるため、ハローやグレア、コントラスト感度の低下を感じることがあります。
どちらのレンズが優れているということではなく、患者さまの目の状態や生活スタイルに合っていることが大切です。
イナガキ眼科では、左右の目を組み合わせて見え方を設計します
イナガキ眼科では、両目に同じ種類のレンズを入れる方法だけでなく、患者さまの生活に合わせて、左右の目の見え方を組み合わせる方法もご提案しています。
焦点深度拡張型レンズによるマイクロモノビジョン
焦点深度拡張型レンズを両目に使用し、一方の目は遠方に合わせ、もう一方の目をわずかに近視寄りに設定する方法があります。
これを「マイクロモノビジョン」と呼びます。
左右の目のピントに小さな差をつけることで、焦点深度拡張型レンズの比較的自然な見え方や、ハロー・グレアの少なさを生かしながら、中間距離から手元まで見える範囲を広げることを目指します。
左右の差を大きくしすぎないため、一般的なモノビジョンよりも違和感を抑えながら、眼鏡を使用する頻度を減らせる可能性があります。
ただし、すべての患者さまが左右差に適応できるわけではないため、利き目や生活スタイルなどを考慮して慎重に検討します。
回折型と焦点深度拡張型を左右で組み合わせる方法
患者さまによっては、一方の目に回折型多焦点レンズ、もう一方の目に焦点深度拡張型レンズを使用する方法もあります。
回折型レンズによって近方視力を確保しながら、焦点深度拡張型レンズによって遠方から中間距離の自然な見え方を補う考え方です。
左右で異なる特徴を持つレンズを組み合わせることで、
- 遠方から近方まで見える範囲を広げる
- 眼鏡を使う頻度を減らす
- 両目とも回折型にする場合と比べて、ハローやグレアの影響を抑える
ことを目指します。
ただし、ハローやグレアを完全になくせるわけではなく、感じ方にも個人差があります。また、左右で異なるレンズを使用することが、すべての患者さまに適しているわけではありません。
当院では、患者さまのご希望と目の状態を十分に確認したうえで、両目のレンズの組み合わせをご提案しています。
遠視や強い近視の方は、良い適応になることがあります
矯正視力が良好であっても、強い遠視や近視のために日常的に眼鏡やコンタクトレンズが欠かせない方がいらっしゃいます。
特に遠視の方は、若い頃から遠方にも近方にも調節力を使っていることが多く、老眼が進行すると、遠くも手元も見づらくなることがあります。
また、強い近視の方は、遠方を見るために眼鏡やコンタクトレンズが必要であり、白内障手術後に遠方へ合わせると、それまで裸眼で見えていた手元が見えにくくなることがあります。
このような方では、多焦点眼内レンズやマイクロモノビジョンを活用することで、遠方から手元までの見える範囲を広げ、眼鏡を使う頻度を減らせる可能性があります。
ただし、強い近視の方では網膜の状態なども重要です。矯正視力が良いという理由だけで多焦点眼内レンズが適しているとは限らず、角膜・視神経・黄斑部・網膜などを詳しく検査する必要があります。
多焦点眼内レンズが適さない場合もあります
多焦点眼内レンズは、すべての患者さまに適しているわけではありません。
例えば、
- 緑内障
- 黄斑疾患
- 網膜疾患
- 角膜疾患
- 強いドライアイ
- 不正乱視
- 夜間運転が非常に多い
- わずかな見え方の違和感も気になりやすい
といった場合には、単焦点眼内レンズや他の種類のレンズが適していることがあります。
多焦点眼内レンズを無理に選ぶのではなく、目の状態によっては単焦点眼内レンズをおすすめすることも、良い手術結果のためには重要です。
イナガキ眼科では「レンズ」ではなく「術後の生活」を選びます
「どの眼内レンズが一番良いですか」と聞かれることがあります。
しかし、すべての患者さまにとって一番良い眼内レンズはありません。
大切なのは、レンズの名称や新しさだけで選ぶのではなく、
- 運転をする機会
- パソコンを使う時間
- スマートフォンや読書の頻度
- 趣味や仕事
- 眼鏡をどの程度減らしたいか
- ハローやグレアをどの程度許容できるか
- 目の状態
などを総合的に考えることです。
イナガキ眼科では、単焦点眼内レンズ、焦点深度拡張型レンズ、回折型多焦点レンズの特徴を丁寧にご説明します。
さらに、焦点深度拡張型レンズを用いたマイクロモノビジョンや、左右で異なる特性のレンズを組み合わせる方法なども含め、患者さまと相談しながら、術後の生活に合ったレンズ選択を目指しています。
白内障手術によって老眼そのものを完全に元の状態へ戻すわけではありません。
しかし、眼内レンズの種類や左右のピントの設定を工夫することで、遠くから手元までの見える範囲を広げ、眼鏡を使用する頻度を減らせる可能性があります。
白内障手術や多焦点眼内レンズをご検討中の方は、ぜひイナガキ眼科へご相談ください。
一人ひとりの目の状態と生活に合わせて、納得できるレンズ選択を一緒に考えてまいります。
イナガキ眼科
理事長・院長 稲垣 圭司
